看護師に不可欠な接遇のスキル。言葉遣いから身だしなみまでを解説

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看護師として入職後の初期研修では、「接遇」というテーマを扱うことがあります。これは、コミュニケーションの基礎を学び社会人として大事なマナーが身につくだけでなく、患者さんや家族との信頼関係構築や医療安全につながります。今回は医療の現場で求められる接遇とマナーについて押さえるべきポイントを紹介します。

円滑な人間関係や医療安全にもつながる接遇とマナー

看護師として働くうえで大事なことは知識や看護技術だけではありません。対人援助職である看護師は、患者さんや家族のケアだけでなく、同じ看護師や他の医療従事者などとの連携も必要になってきます。そうしたときに、接遇やマナーができていないと、看護師に対する不信感や関係悪化、最悪の場合医療事故にも繋がってしまうかもしれません。自分が目指す看護師像を考えていくためにも、最低限の接遇やマナーについてポイントを押さえていきましょう。

よりよい看護を提供するためには患者、家族との信頼関係が大切

看護を行ううえで看護師と患者さん、家族とは相互に信頼する関係が前提としてあります。そうでないと、治療に対する患者さんや家族の協力が得られないばかりではなく、妨げになってしまうからです。特に、「看護職の倫理綱領」(日本看護協会、2021)では、看護師の考える視点を以下のように述べています。

  • 看護職は、人間の生命、人間としての尊厳及び権利を尊重する。
  • 看護職は、対象となる人々に平等に看護を提供する。

引用:看護実践情報「患者・家族との信頼関係と倫理」(日本看護協会)

より質の高い医療を提供するためには、よりよい関係を気づくための接遇やマナー、コミュニケーションが大事であることがわかります。

医療に求められる接遇とマナーの違いを理解しよう

接遇やマナーというと、サービス業や接客業などの接客マナーのイメージが強いでしょう。しかし、医療の現場で使われる接遇は接客マナーとは少し違います。同じ心構えや姿勢であっても、その目的が異なることをまずは理解しましょう。

例えば、挨拶や言葉遣い。接客マナーでは背筋を伸ばし、お辞儀の角度なども指定されていることがあります。敬語をしっかりと使い、明るく笑顔を作ることも求められるでしょう。医療現場の接遇の場合には、そこまで厳密にお辞儀の角度などは求められませんが、患者さん相手に緊張や不安、威圧感を与えないように心がける必要があります。敬語もかしこまりすぎず、笑顔も時と場合によっては抑えることも必要です。また、身だしなみに関しても、接客マナーでは不快感を与えないように清潔感を意識したものですが、医療現場の接遇の場合には清潔で機能的、安全であることが重要となり、リスク管理や医療安全に繋がります。医療接遇と接遇マナーにはこうした違いがあることを覚えておきましょう。

看護師が接遇で身につけるべき4つのポイント

看護師が接遇で身に着けるべきポイントを4つに分けて解説します。

1.挨拶

ひとつめは「挨拶」です。挨拶には「声掛け」と「相手を気遣う」ものの2つに分けて考えてみましょう。

声掛けの挨拶

「挨拶に始まり、挨拶に終わる」という言葉があるように、接遇やマナーを語るうえで挨拶は基本中の基本です。「おはようございます、こんにちは、こんばんは」などは、時間帯によって使い分けが必要ですが、廊下で目が合ったとき、患者さんの部屋に伺うとき、診察時など最初に声をかけるときに使います。そのときの相手の反応によっては、身体的・精神的状態を観察することもできます。例えば、すぐに反応がなかったとき、声が小さいときなどは「何か考えごとをしていたのかな」「具合が悪いのかな」などとアセスメントすることができます。挨拶は毎日するものなので、これまでと比べてどう変化したかなどで、相手の状態を推し量ることができます。

相手を気遣う挨拶

「ありがとうございます、お疲れさまです、失礼します、お待たせしました、お大事になさってください」などは、相手を気遣う挨拶です。診察や処置、検査の前後、患者さんの部屋に伺うときなど、相手のパーソナルスペースに入り込む、身体的・精神的疲労を労うような場面で使われます。無言でさっと済ませられてしまうよりも、こうした一言があるとほっと安心するのではないでしょうか。これは患者さんや家族だけに限らず、同僚や他職種に対しても同じです。

2.身だしなみ

看護師にとっての身だしなみは相手目線で考え、不快感を与えず、かつ清潔で機能的、安全であることがあげられます。自分目線で好きなものを身につける「おしゃれ」とは違います。例えば、髪は後ろでまとめてお団子にする、ネックレスやネイルなどはつけないなどの規定が病院であったとします。これは処置をする際に髪が前に垂れてしまうと不潔になってしまう、視界が遮られてしまうからです。

また、ネックレスやネイルはMRIなどの検査では磁気に引き寄せられてしまう金属、鉄分などが含まれるため、持ち込み禁止とされています。しかし、処置や検査がほとんどないところでは、髪を後ろでまとめるだけでOK、ネックレスは小ぶりのもの・控えめなものであればOKとしているところもあるでしょう。まずはそれぞれの職場でどのような規定が設けられているか確認し、それに従うようにしましょう。

看護師の身だしなみチェックリスト

ヘアスタイル 職場ではあまり奇抜なものは避けたいものです。ヘアカラーは明るすぎないように注意。肩にかかるロングヘアは、邪魔にならないようすっきりまとめしょう。前髪も目にかからないように短く、またはピンで留めるように。
メイク ノーメイクでは顔に精彩がなくなってしまいます。薄づきのファンデーションと、顔色をよく見せるチークやリップメイクくらいはするようにしましょう。ただし気をつけたいのが、華美になりすぎないこと。厚化粧や流行の派手なメイクは職場には似つかわしくありません。アイメイクやチーク、グロスなどは控えるようにしましょう。
指先 患者さんに直接触れるケアの多い看護師は指先の身だしなみまで気を配りたいものです。爪が伸びていたら、不快感を与えますし、患者さんを傷つけかねません。爪はいつも短く指先が当たっても傷をつけないように配慮を。また汚れがたまらないように清潔に。またマニキュアをするとしたら透明や淡い色のものに。
服装 ユニホームは清潔でプレスされたものに。シミなどの汚れをそのままにしないように。また靴は動きやすくて足音が小さいものを選び、汚れがないよう日頃から手入れをしましょう。ストッキングはたるみや伝線がないか、常にチェック。アクセサリー類はできるだけ着用しないように。

3.言葉遣い

仕事中の言葉遣いは敬語、丁寧語で話すのが基本です。ただ、耳が遠い患者さんに簡潔に伝わりやすくするときや、同僚との休憩中のやりとりではその限りではありません。また、目上の人に使う尊敬語、自分をへりくだるときに使う謙譲語は時と場合によっては必要になります。例えば、患者さんではなく「お客様」と呼ぶようなホスピタリティ要素が強い、美容系クリニックや施設などでは「いらっしゃる」「おっしゃる」などの尊敬語、「かしこまりました」「拝見します」などの謙譲語を使う頻度が高くなるかもしれません。

医療の現場でよく使う間違えやすい敬語と丁寧語

悪い例 良い例
どちら様でしょうか お名前を伺ってもよろしいですか
お名前をお聞かせいただけますか
しばらくお待ちください 少々お待ちください
ご苦労さまです お疲れ様です
了解しました 承知しました
かしこまりました
お座りください お掛けください
どうしますか いかがいたしますか
私のほうで担当します 私が担当します

4.表情、態度

コミュニケーションには言語情報を指す言語コミュニケーションと視覚や聴覚情報を指す非言語コミュニケーションがあります。どんなに言葉を丁寧にしても、態度が横柄であったり、早口でまくしたてていたりすると視覚、聴覚、言語の情報が一致しなくなってしまいます。「メラビアンの法則」によると、非言語コミュニケーションを活かすためには、視覚・聴覚、言語の情報を一致させることが大切になってきます。

例えば、患者さんの心情を聞くときには、立ったままではなく、その場に軽くしゃがむか座り、目線を合わせ、笑顔は少し抑える。ゆっくりと頷き、「つらかったのですね」「話してくれてありがとうございます」と情報を一致させたやりとりをします。あなたに関心を持っていること、安心して話をしていいことを表情や態度から伝えるためです。

患者さんや家族と良好な関係を築くための取り組み

基本的な接遇やマナーはどこであっても誰であっても同じですが、個々の患者さんや家族に合わせたコミュニケーションで良好な関係性を築いていくことが大切です。質の高い医療の提供のためには、看護師側が一方的に言いたいことを伝えるコミュニケーションではなく、患者さんの話や訴え、ニーズを引き出す相互性のコミュニケーションが必要です。ここでは看護師のためのコミュニケーションスキルの一つとして“NURSE”を紹介します。

NURSEは、日本看護協会の緩和ケアテキスト内でも紹介されるなど、がん看護領域全体に広まりつつある共感するスキル、コミュニケーションスキルです。基本的なコミュニケーションスキルからさらに一歩踏み込み、患者さんの感情表出を促すものです。

看護師のためのコミュニケーションスキル“NURSE”

N(Naming:命名)

患者さんの表出した感情に名前をつける。患者さんの言うことをよく聴き、感情を理解したというメッセージを送る

U(Understanding:理解)

患者さんの感情的な反応に対し、理解できると表明する。患者さんの困難な状況や感情を敏感に理解し、受け入れ、関係を構築する

R(Respecting:承認)

患者さんの感情だけではなく姿勢・態度・人格・対処方法を含め称賛する。

感情だけでなく、思いや行動を心から承認する

S(Supporting:支持)

患者さんの状況に理解を示し、「私はあなたを援助したい」「協力して問題に立ち向かいたい」ということを明確に伝える

E(Exploring:探索)

患者さんに起こっている状況を整理し、それが患者さんにとってどのような意味をもつのかを明確にしていく

参考:日本がん看護学会 監修:患者の感情表出を促す NURSEを用いたコミュニケーションスキル,医学書院2015

すぐにNURSEのスキルを修得するのは難しいかもしれませんが、接遇やコミュニケーションスキルを意識していくなかでこうしたコミュニケーションスキルがあると知っておきましょう。

接遇やマナーを身につけスムーズなコミュニケーションを実現しよう

医療の現場における接遇やマナーのポイント、重要性を解説しました。接遇やマナーを押さえることで患者さんや家族へのケア、または同僚や他職種との連携もスムーズにいきます。ただ、看護師の場合には、接客業で求められるようなマニュアル化された挨拶や言葉遣いだけではありません。その場、その患者さんや家族ごとに状況を判断し、臨機応変に対応が求められるものです。1年目から接遇やマナーをしっかりと身につけていきましょう。

引用・参考

1)瀬川裕史:「医療安全」は「接遇」がつくる,病院安全教育,4(1):63-65,2016
https://www.nissoken.com/setsugu/syoukai/1-8.pdf

2)日本看護協会:看護実践情報「患者・家族との信頼関係と倫理」
https://www.nurse.or.jp/nursing/practice/rinri/text/basic/problem/shinraikankei.html

3)日本がん看護学会 監修:患者の感情表出を促す NURSEを用いたコミュニケーションスキル,医学書院,2015
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/89435

白石弓夏
この記事を書いた人
白石弓夏
1986年千葉県生まれ。2008年に看護専門学校卒業、看護師免許取得。10年以上病院やクリニック、施設等で勤務。2017年よりライターとして活動。現在は非常勤として整形外科病棟でも勤務中。2020年11月には9人の看護師にインタビューした著書『 Letters~今を生きる「看護」の話を聞こう~(メディカ出版)』を発売。

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